遺伝子について
遺伝子とは、DNAの中で遺伝情報を含む部分のことを言います。
DNA(Deoxyribo nucleic acid)は、デオキシリボ核酸という物質のことで、私たちの体の特徴を決定する、いわゆる体の設計図です。
DNAの塩基(DNAを構成する主要な成分)には、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4つがあり、この塩基の配列によって、ヒトが保有する遺伝情報が保たれています。
ヒトの遺伝子の99.9%は同じ塩基配列になっていますが、さまざまな研究の結果、個人によって塩基配列に違いがあることが明らかになってきました。
この違いを「遺伝子多型」と呼び、顔つきやスタイル、運動能力、性格の違い、病気のなりやすさなどの個人差を生み出しています。
遺伝子多型とは
「遺伝子多型」は、塩基配列の違いが人口の1%以上の頻度で存在する遺伝子の変異です。
遺伝子多型にはさまざまな種類がありますが、遺伝子配列の中の一箇所だけが他の塩基に置き換わっているものを「SNP(スニップ、一塩基多型)」と呼びます。
SNPは3種類のタイプに分類されます。
両親から受け継いだ2つの遺伝子のうち、両方の遺伝子にも変異がないケースを「ワイルド型」、片方の遺伝子に変異があるケースを「ヘテロ型」、両方の遺伝子に変異があるケースを「ホモ型」と言います。
遺伝子多型はSNPの他、「1から数十塩基が欠失あるいは挿入している多型」や、「ある配列を1単位とする配列の繰り返しの回数が個人間で異なる多型」などがあります。
尚、ある特殊な人だけに稀に見つかった遺伝子の変異は、多型ではなく「突然変異」と呼ばれています。
遺伝子検査の分類
遺伝子検査は、遺伝子の持つ情報を解析することで、生まれ持った「病気のなりやすさ」や「体質」などを知る検査です。
一方で、ヒトに感染するウィルスや細菌などの遺伝子を調べる検査も遺伝子検査と言います。
遺伝子検査は、大きく分けて以下の3種類に分類されます。
①病原体遺伝子検査
ヒトの遺伝子を調べる検査ではなく、ヒトに感染する病原体(ウィルスや細菌などの微生物)の遺伝子を調べる検査です。
各病原体の固有の遺伝情報を検出することで、特定の感染症に感染していないかどうかを判断します。
医療現場で実施されているため、遺伝子検査全体の中で約90%以上を占めるといわれています。
②ヒト体細胞遺伝子検査
身体の一部に起きた後天的な遺伝子の変異を発見する検査で、多くの場合、対象となるのは「がん」です。
次世代には伝わらない遺伝子の変異を調べています。
③ヒト遺伝学的検査
生まれつき持っていて、生涯にわたって変わることのない、次世代に引き継がれていくような遺伝学的情報を解析する検査です。倫理的な問題を多く含み、遺伝カウンセリングが必要とされています。
(例)単一遺伝子疾患、多因子疾患、薬物等の効果・副作用・代謝、個人の識別に関わる遺伝学的な検査等、個人遺伝情報を取り扱う遺伝子検査⇒(ヒト遺伝学的検査の種類一覧表)
DTC遺伝子検査とは
最近は医療機関を介さずに、直接消費者に遺伝子検査サービスを提供する民間企業も増えてきています。
このような遺伝子検査サービスは、DTC遺伝子検査(Direct−to−Consumer:消費者直販型の遺伝子検査)と呼ばれています。
DTC遺伝子検査で調べているのは、個人が持つ特定の遺伝子配列の違い「SNP(スニップ)」です。
測定する項目は、通常のがんや高血圧・糖尿病・肥満など多因子疾患(ありふれた病気)の発症リスクや体質の情報となります。
特定の病気の発症と強い相関があることが判明している遺伝子(単一遺伝子)を調べることは、医療領域となるため、DTC遺伝子検査の解析対象ではありません。
<注意点①>
DTC遺伝子検査の解析結果から分かる情報は、あなたと同じ遺伝型をもつ集団の「病気のかかりやすさ」や「体質」に関する『傾向』であり、あなた個人がその病気にかかるかどうかを診断するものではないことに注意が必要です。
加えて、遺伝的リスクが高くてもその病気を必ず発症するわけではなく、遺伝的リスクが低くても発症する可能性がないと断定しているわけでもありません。
病気の発症には、遺伝要因が約30%、生活習慣などの環境要因が約70%影響していると言われています。(病気によって割合は異なります)
つまり、遺伝的リスクが高い傾向にあっても、個々の環境要因や生活習慣の改善等により、予防は十分可能と言えますし、遺伝的リスクが低い傾向だからといって、日々の生活習慣が影響し、病気を発症する可能性もあります。
遺伝要素と環境要因のどちらか一方ではなく、両方に注意することが必要だと言えます。
<注意点②>
DTC遺伝子検査は、検査会社各社によって調べる遺伝子や根拠とする論文が異なり、各社独自のリスク判定の基準や算定方法を用いているため、同じ検査項目であっても検査会社ごとに結果が異なるケースがあります。
<注意点③>
DTC遺伝子検査は、手軽に受けられることから広がりを見せていますが、日本人類遺伝学会は「DTC遺伝学的検査に関する見解」や、「一般市民を対象とした遺伝子検査に関する見解」(厚生労働省WEBサイトより)を発表し、DTC遺伝子検査に対して警鐘を鳴らしています。
そのほかの参考情報はこちら
・遺伝子検査ビジネスの質と科学的根拠
・東大医科研公共政策研究分野が公開している「遺伝子検査サービスを購入しようか迷っている人のためのチェックリスト10か条」
DTC遺伝子検査から得られる情報には限界があり、この検査結果だけですべてを把握することはできません。
自分自身の体の傾向を知り、生活習慣の改善や病気の予防等に繋げるひとつの手段と捉えることをおすすめします。